本の題名に惹かれて、次の本を読みだした。
ジェームス・R・チャイルズ(高橋健次訳)2006「最悪の事故が起こるまで人は何をしていたか」草想社 多数の重大事の話が次から次とでてきて、かなり読みにくい。なじみのないシステムの話もあるが、オートマ車のペダル踏み間違い事故など分かりやすい事例もある。難解ながらも、いろいろな事故に類似性があるは理解できた。このように重大事故の情報が記録され、蓄積されることは意義深いだろう。私のような隠居ではなく、これから実社会でマンマシン・システムに関わる人に読んで欲しい。 この本を読みながら、「失敗学」というネーミングで注目された本があったことを思い出して、読んでみた。 畑村洋太郎2000「失敗学のすすめ」講談社 この本は失敗を事故よりもずっと広く「人間がかかわった、望ましくない結果」と定義している。失敗に関する著の考えが延々と述べられる。何も考えないで読む人には、ためになるかもしれない。しかし少し注意深く読む人には根拠がはっきりしない主張をレトリックでごまかしているため、読むのがイヤになる。著者を直接知っている人や、その専門分野での業績(おそらく優れた業績があるのだろう)を知る人には意味があるかもしれない。しかし従来からある安全工学とは別に、失敗学を新たに起こしてどんな意義があるか、私には分からない。失敗に関する情報の蓄積が重要だということを本のネーミングによって世に知らしめた価値はあるだろう。マンマシンシステムにはたずさわらない、マスメディアの情報に洗脳された人に読んで欲しい。(マンマシンシステムにたずさわる人は本格的に安全工学を勉強すべきだ) ところで、日本の風潮に関する感想をひとつ。 日本では事故が起きると原因究明よりも責任者追求の方が優先される。マスメディアもそれを助長する。たとえば航空事故についても、検察・警察による調査が航空・鉄道事故調査委員会の調査に優先する。そして検察・警察はなんとかして機長の責任にきそうとする。(先日の、97年6月、香港発名古屋行き日航706便MD11が乱高下した事件では二審までは無罪になったが、そもそも起訴するような事件なのか?)しかも航空事故調査委員会の報告が証拠として裁判に利用される。当然、責任が追求される可能性がある乗組員は調査に協力しない。米国の常識とはかけ離れている。事故を減らしたい航空業界の人は大声で叫びたいだろうが、そんなことをしたらマスメディアから袋叩きに会うだろうから、何も言えない。 残念ながら日本では重大事故の情報は責任者を追及するためのもので、それを情報として蓄積して将来の発生を減らそうという仕組みはない。
by takaminumablog
| 2007-02-11 17:58
| 読書日記(その他の科学)
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