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好感の持てる地球温暖化解説書

江守正多2008 地球温暖化予測は「正しい」か?-不確かな未来に科学が挑むー 化学同人
過去に地球温暖化予測に対する疑問がいくつも提示されてきた。頭ごなしにけなす文章は見たことがあるが、まともな反論というものを見たことがなかった。どうも環境学者はイデオロギーとサイエンスをカップリングする困った傾向があるようだ。
地球温暖化予測への有力な批判の一つは「コンピュータシミュレーションにインチキがあるのでは?」である。
もう少し具体的いうとシミュレーションでは地球を数百キロメートル四方の升目に分割して計算している。この升目より小さな現象は「パラメータ化」という手法で逃げてきた。この手法はこうしなければならないといルールはなく、インチキがあっても分からないのではないかというものである。この本の著者はその批判にまともに回答している。
さて、パラメータ化の仮定が経験的ということが、現在の気候のデータと合うようにご都合主義的に勝手にいろいろ決めてよいかという意味だとすると、かなり心配な気がします。つまり、パラメータ化の部分を好きなようにいじれば、モデルの結果をいくらでも好きなように現実の地球に似せることができるのではないかという疑問が生じます。
しかし、これは気候モデルの開発に携わっている研究者の実感としていいますが、幸か不幸か、実際にはそれほど勝手なことはできないのです。第一に、すでに述べたように、各種の保存法則をはじめとする理論に矛盾することはできません。これは当然のことです。第二に、経験的な定数などもでも観測データからその値が非常によく分かっているものについては、そのとおりの値をつかわなくてはなりません。これも当然です。
第三に、経験式といえども、地球全体で同じ式を普遍的に使わなければなりません。これは、どこかでそういう取り決めをしたという話は聞いたことがありませんが、われわれ気候モデルの専門家の常識として、そういう約束になっているように思います。-中略― 
このように気候モデルは完全ではありませんが、インチキでもありません。そのことがモデルの成り立ちの面から理解していただけたのではないかと思います。

実は気候モデルの批判者たちからインチキ臭いと言われるものに「フラックス調節」がある。これについてもこの本で言及されている。
じつはひと昔前のモデルでは、海面水温の分布をうまく表現することができませんでした。現実的な水温の分布を初期条件にして計算をスタートすると、計算が進むにつれて海面がどんどん冷えてしまったり、どんどん暖かくなってしまったり、どんどん水温の分布が変ったりして現実的な気候の状態を維持できなかったのです。
それでは困るので、当時のモデルでは、海面水温の分布が現実的になるように、大気と海のあいだの熱のやりとり(フラックス)に人工的な補正項を追加して計算を行っていたのです。また多くの場合、大気と海のあいだの水のやりとりにも同様な補正を加えていました。このような操作を「フラックス調節」と呼びます。
フラックス調節の補正項は場所と季節によって値が異なりますが、毎年同じ値を与えています。
また温暖化する前と後でも同じ値を与えます。温暖化する前と後で同じ値を与えているのだから、予測結果にはあまり影響を与えないはずだという主張もありました。しかし、この項の存在はエネルギーや水の保存則に反していますし、場所による値の違いに物理的な意味はありません。さきほど説明したパラメータ化の半理論性(物理法則に矛盾しない)と普遍性(どこでも同じ方程式を使う)の精神に照らして考えると、どうも反則気味な気がします。不完全性の大きなモデルで多少とも意味のある実験をするための、苦肉の策といったところでしょう。
ところがIPCCの第四次評価報告書にでてきた気候モデルは、ほとんどがフラックス調節なしで、現実的な海面温度の分布を維持し、100年でも200年でもきちんと、その温度が維持されて走るモデルになってきました。
大気モデルと海洋モデルがそれぞれ充分に現実的になれば、大気と海洋のあいだの熱や水のやりとりが現実的になり、ちゃんと現実的に走ったというわけです。これはわれわれのコンピュータの能力の向上に加えて、われわれが自然を理解した結晶であるところのパラメータ化、それが進化していることを意味しているのです。

分かりやすい表現でいうと「イカサマしなくても、まともそうな結果が出せるようになったので、イカサマは止めた」ということらしい。
なにはともあれ気候シミュレータの研究者からの正直な解説は参考になる。
実は地球温暖化の二酸化炭素主因説に対する最も大きな疑問は、シミュレーションではなく、その前提となっている放射強制力である。この本には放射強制力についてちょっとした解説はあるが、二酸化炭素の放射強制力がどうやって導き出されたのかまでは解説されていない。二酸化炭素の放射強制力がずば抜けて大きいという前提に立てば、二酸化炭素が増えれば温暖化するという結果になるだろう。この問題について解説した本を出版して欲しい。そのような本が出版されるまでは地球温暖化の二酸化炭素主因説を信じるのは保留した方が良いだろ。
ところでTechobahnの記事によると「人類の活動が地球温暖化の主因である」と信じる気象学者は64%だったそうだ。
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by takaminumablog | 2009-01-23 17:06 | 読書日記(環境問題) | Comments(0)