<   2006年 12月 ( 1 )   > この月の画像一覧

科学者の不正行為

(1)ウィリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド(牧野賢治訳)2006「背信の科学者たち 論文捏造、データ改ざんはなぜくりかえされるのか」講談社
(2)山崎茂明2002「科学者の不正行為―捏造、偽造、盗用」丸善
最近、科学者の不正行為(ミスコンダクトというーこの言葉については後述)が話題になっている。そこでその問題を世間に知らしめるきっかけとなった(1)を読んで見た。読み出して気づいたが、昔、読んだ事がある。この本は東京化学同人から出版されたものの再出版だった。(内容は少し変えてあると序文に書いてある)
 歴史的に有名な不正行為の例がつぎつぎと紹介されていて面白いが、ちょっと怖い話でもある。 個々の事例は本を読んでもらうしかないが、読みながら感じたことを2、3あげたい。
この本には日本人の事例はほとんどでてこない。わずかに野口英世の業績(次々と病原体を培養したと発表)が歴史の評価に耐えられなかったことが紹介されている。野口が著名なアメリカの医学者に支持されていたため、審査を免れたためらしい。最近、野口英世賞というのが新設されたらしいがネーミングに疑問を感じる。
世間ではノーベル賞に対する信頼は絶大である。(ただし平和賞と経済学賞は除く)しかし不適切な例もあるようだ。アントニー・ヒューイッツはパルサー(パルス状の電磁波を出す天体)を発見して1974年のノーベル物理学賞を受賞した。しかしパルサーを実際に発見したのは大学院生のジョリスン・ベルであり、ヒューイッツは指導者であったらしい。少なくともノーベル賞は共同受賞者とすべきであった。
 シリル・バートの一卵性双生児のIQテストのデータ捏造(まったく調査しないでかってにデータを捏造していた)は、後に「遺伝的要素が知能の80%を決定している」などの根拠のない議論を生み出している。日本で出版されている通俗本のなかにはいまだにこの結論を引用しているものがある。どうも不正行為による根拠のない論文も、一度世間に認められてしまうと、なかなか修正されないようだ。
 ところで(1)の本には原著発行後のミスコンダクト事情という長い解説(26ページ)がついている。この解説を読めば不正行為はアメリカだけでなく、日本も含めて世界にまたがる問題だということが良く分かる。科学者仲間は、なぜ不正行為と言わないでミスコンダクト(misconduct)というのだろうか。英語を知らない人にはミステイク(誤り)に似たようなものに聞こえるかもしれないが、英語の意味は不正行為である。さらに科学者たちは不正行為の定義を捏造、偽造、盗用(これをその英語の頭文字をとってFFPというらしい)に限定的しようとしているようだ。
 ミスコンダクトといわないで不正行為という言葉をタイトルに選んだ(2)を読んでみると捏造、偽造、盗用以外にもオーサーシップがいかに大きな問題かが良く分かる。 オーサーシップの問題とは、実際には論文作成に貢献していない人を著者に加えることである。たとえば研究費獲得に貢献しただけの人を著者に加えたり、論文数を増やすためにお互いに著者に加えることなどをいう。(2)の中には日本の学者がアメリカに留学している間に行った共同研究を帰国後、共同研究者の名前をはずして自分だけの業績のように発表した事例が紹介されている。

 日本の科学者たちもでもようやく不正行為をなくすにはどうするべきか考え出したらしい。たとえばこちらを参照。しかし「不正の告発があった場合の対応窓口を(第三者機関ではなく)各研究機関に設ける」といった対応で、手ぬるいとしか思えない。会社の経理に監査が必須なように科学者も普通の人間と同じように嘘を付くことを前提にした対応をとらない限り、不正行為は続くにちがいない。
[PR]
by takaminumablog | 2006-12-14 12:35 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)