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右手・左手

(1)デヴィッド・ウォルマン著 梶山あゆみ訳2006 “「左利き」は天才?-利き手をめぐる脳と進化の謎”
日本経済新聞社 原題 A Left-Hand Turn Around the World: Chasing the Mystery and Meaning of All Things Southpaw
(2)クリス・マクナス著 大貫昌子訳2006“非対称の起源-偶然か、必然か”講談社 原題 RIGHT HAND, LEFT HAND
最初にあげた本“「左利き」は天才?”は難しそうなタイトルがついているが、内容はそうでもなく英語のタイトの
方が内容を正確に表している。左利きの著者が左利きにとって意味のある場所や利き手の研究者(広川教授、クリス・マクナスら)を訪ね歩く話。左利きだけが生まれたという伝説のカー一族の城、ピエール・ポール・ブローカが言語中枢(ブローカ野と呼ばれる)が脳の左半球にあることを発見した脳の標本が保存してある博物館を見に行った話、チンパンジーの利き手を研究する施設の見学、事故で失った右腕に左手を移植した男へのインタビューなどを通して、左利きの意味を考える話だ。この本は(2)“非対称の起源”(原題を直訳すると「右手・左手」)の後に書かれたもので、その本の存在前提している。著者の名前クリス・マクナスの名前を頻繁にでてきて、次のような紹介まで書かれている。
カー一族の謎と利き手の問題を説明できる人がいるとすれば、それは神経心理学者のクリス・マクナスだろう。スコットランドへ向かう途中、ぼくはロンドン大学ユニヴァシティ・カレッジに寄って心理学部のマクナスのオフィスを訪ねた。マクナスは右利きで、ぼくが生まれる前からずっと利き手の研究をしている。彼が書いた「右手・左手」は、手のことに留まらず原子核からブラックホールまで、ありとあらゆるものの非対称性を取り上げた素晴らしい本である。マクナスは、利き手が遺伝する仕組みについての有力な仮説の一つを唱えているだけでなく、地球上でたぶん彼一人しか成し遂げていない一風変わった偉業を達成した。優れた科学ノンフィクションに贈られるアヴェンティス賞と、ハーバード大学で授賞式が行われる悪名高き「イグノーベル賞」の両方を同じ年に受賞したのである。イグノーベル賞の対象になったのは、睾丸の左右非対称に関する論文だった
   (1)p.52
(2)の冒頭に心臓が右側にある人の話がでてくる。このような症状を内臓逆位というそうだ。このような症状は意外と多く1万人に1人程度あるらしい。
さて、脊椎動物で最も重要な非対称性は、疑いもなく心臓の非対称性である。このような非対称性が生じるのは、互いを誘発しあうタンパク質の複雑なカスケード(段階的活動)がいつしか心臓管の片側の細胞を、わずかに速く成長させた結果だ。そしてそれ以後その人の心臓はもう右側ではなく左側と決まってしまう。数個の遺伝子のタイミングと、その遺伝子が入った組織の位置、それに心臓の細胞を作るその特異性とが、すべていっしょに働き、一見単純なこの側方化の結果を生むことになるのだ。
   (2)p.350
このメカニズムの発見者が(1)の著者も訪ねた広川信隆教授だ。
 それではわれわれの身体を構成する物質に非対称があるのだろうか。化学を勉強した人であれば光学異性体、あるいは鏡像体という言葉を思い出すだろう。身体を構成するアミノ酸はすべてL体である。(話が横道にそれるがサリドマイド事件で光学異性体の名を知った人が多い。今から30年ほど前.催眠薬サリドマイドが発売された。これは良好な催眠作用があるので,特に妊婦の不眠症に処方された。ところが,この薬を服用した妊婦から身体障害児の出産が相次いだ。後に光学異性体の一方のみが催眠性を持ち、もう一方は催奇形佐を持つことが判明した)
 つぎに「我々の住む宇宙に非対称が含まれるのであろうか」という疑問が生じる。物質に働く力には重力、電磁力、弱い力(あるいは弱い相互作用)、強い力(強い相互作用)の4つがある。こちらの解説記事参照。このうち重力、電磁力、強い力は空間反転した(鏡に映した)ときも同じ物理法則が成り立つ。しかし弱い力にはこれが成り立たない「パリティ対称性の破れ」という現象がある。この予測をしたヤン(楊振寧、Chen Ning Yang)とリー(李政道、Tsung-Dao Lee)は1957年のノーベル物理学賞を受賞している。
 「脳の非対称性はどこからくるのか」「利き手の非対称性と脳の非対称性の因果関係は」という疑問もわく。さらに話を複雑にするのは左利きに対する社会的規制あるいは差別だ。考え出すときりがないくらい長い連鎖だ。
科学者たちは今まで、物理学、生物学、神経科学、そして人類学へとあらゆるレベルで非対称性を結びつけ、弱い相互作用→L-アミノ酸→タンパク質→細胞→組織→器官→体→脳→文化という連鎖で表すことに非常に慎重だ。
   (2)p.450
これにつづき著者自身の見解も含め、科学者のいろいろな見解が述べられている。(2)はかなり分厚い新書だが皆に薦めたい面白い本だ。
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by takaminumablog | 2006-11-28 09:57 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

錯視

日本バーチャルリアリティ学会VR心理学研究委員会編2006「だまされる脳 バーチャルリアリティと知覚心理学入門」講談社
もちろんこの本はヴァーチャルリアリティについて解説した本だが、私には錯視に関する記述がもっとも印象に残った。本のはじめの方に錯視について解説がある。
われわれ人間は、前後・左右・上下の方向に空間が広がる三次元世界の中で生活しています。そして目で見る世界も三次元的に感じています。読者の皆さんは、そんなこと当然だ、と思うかもしれません。しかし視覚情報の入り口である目の網膜は二次元的なセンサーですから、目からは縦横の二次元の情報しか取得できないはずです。視覚情報が三次元的に感じられるのは脳が三次元的な世界を作り上げているからです。

この前置きにつづいて錯視の原理についての説明がある。多くの錯視は脳が三次元的世界を作り上げる過程で必然的に生じるものらしい。次のような3D図形は多くの人には四角い積み木のようなもの見えるであろうが、平面から窪んだ形にも見えなくはない。積み木のような立体に見えるのは、われわれが右上部から光が当たる状況によく出会うという学習の結果なのだ。
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この本を読んでから「錯視」が気になりだし、北岡明佳という著名な錯視研究者(立命館大学教授)がいることを知った。 「北岡明佳の錯視のページ」を開くと迫力満点の動く錯視が目に飛び込んでくる。このような錯視をフレイザー・ウィルコックス錯視というそうだが、そもそもなぜこんな錯視が生じるのであろうか。
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by takaminumablog | 2006-11-16 12:59 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

渋滞について少し勉強してみませんか

西成活裕2006「渋滞学」新潮社
 「渋滞学」という言葉が一般化しているかどうかは知らないが、「交通流」や「セルオートマトン」などより直感に訴える力があり、よい言葉だと思う。この本の最初の方にASEP(Asymmetric Simple Excursion Process非対称単純排除過程)という簡単な数学的モデルが紹介されている。(このモデルはセルオートマトンの一つの例だ) 本を買って読む前にその概要を知りたい方はこちらを参照。
この本の中にも人の避難行動、蟻の行列、生体内のたんぱく質合成などの応用例が記述されているが、いろいろな分野に応用できそうなモデルだ。
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by takaminumablog | 2006-11-02 15:36 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)