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人体部分の商品化

米本昌平2006「バイオポリティクス-人体を管理するとはどういうことか」中央公論社
面白い本を読んだ後は、「こんな風に面白かった」と吹聴したくなるものだが、この本については考え込んでしまって言葉が出ない。
「みんなこの本を読んでください。今日のブログはこれで終わり」というわけにはいかないので、この本の取り扱っているテーマの一つについて少しだけ書くことにする。アメリカの話を引用。
病院で人が亡くなると、NPOのヒト組織バンクのメンバーが遺族の前にあらわれ、「火傷や怪我で苦しんでいる人を助けるため、皮膚や骨の一部をいただけないでしょうか」と申し出ることが多い。どの先進国も慢性的に移植臓器の不足に悩んでいるが、アメリカではその対策として、1998年に臓器摘出促進法を成立させ、人が亡くなると病院は臓器調達事務所(OTO)に通報しなくてはならなくなった。NPOはそこから情報を得、絶妙のタイミングで現れる。良心的な遺族であれば、愛他主義に立って同意することもあり、ヒト組織は無償で提供されることになる。
 問題はこの先である。NPOによっては、皮膚や骨などを遺体から摘出した後、自分たちの組織の運営費をひねり出すために、集めたヒト組織をヒト組織加工会社に転売してしまう。ここからはヒト組織が扱われるモードはがらりと変わり、完全に企業活動の領域となる。

まだ話は続くが気持ちが悪いので、引用は中止。要するにアメリカではヒト組織さえも持ち主が同意すれば市場で商品として取り扱うことができる。一方EUではフランスなどが主導してヒト組織を市場商品にすることを規制しようとしているそうだ。
さて貴方はどちらがよいと思いますか?
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by takaminumablog | 2006-07-24 14:44 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

小学生に英語?

「英語特区」などと言って小学生に英語を教える特区の出現にあきれていたら、次は全国の小学校で英語を必須化するという案がでてきた。そこでこの本を読んでみた。
鳥飼玖美子2006「危うし!小学校英語」文藝春秋
これを読めば小学校英語がいかに危ういものであるか良く分かる。
英語を教えることができる先生がほとんどいないのにどうやって英語を教えるのか。小学生に週一時間程度の授業であれば、ゲームなど遊びの要素を取り入れたものになるだろう。英語を知らない先生が教えるとどういうことになるか、面白い例が載っているので引用しよう。
東京都内のある小学校5年生の授業。担任の先生が、まず英語の歌のテープを流します。それが終わると、次に「ゲームを始めよう」と言って、各班に野菜や果物の絵が描かれたカードを引いてもらいます。「みんなの前で言ってみよう」という先生の掛け声に応じて、リンゴのカードを引いた男の子が立ち上がって、こう言ったそうです。「アイ・アム・アップル!」先生もにこにこして「アイ・アム・アップル!」それぞれの班の子どもたちも、それに続きます。「アイ・アム・ピーチ!」「アイ・アム・バナナ!」「アイ・アム・グレープ!」……あとでバトラー後藤さんにこの授業風景ビデオを見せられたアメリカ人教師たちは、「これは英語ではない」と目を白黒させたそうです。

英語の苦手な人のために解説。
アップル、ピーチなどには定冠詞(アン、ア)が必須。次のようなスタンダード・ジョークがある。日本人がホテルでPlease call me taxi.とボーイに頼んだらTaxiと呼びかけられたそうだ。(a taxiでないために「私のことをTaxiと呼んでくれ」という意味になる)
たとえ定冠詞を追加したとしても「私=リンゴ」という意味になり英語の感覚からすると、とてもおかしい。日本人は食堂でウェイターに「何にしますか?」と「カツどんをお願い」「私はうなぎ」などという。この「私はうなぎ」という文を業界用語で「うなぎ文」と呼ぶ。もちろん英語にはない言い方だ。「うなぎ文」で検索するとたくさんの解説が見つかる。

 この本によると、マスメディアで言われる英語教育に対する「文法偏重」「コミュニケーション軽視」という非難は、非難する人たちの昔の教育に対しては正しくても、現在は当てはまらないようだ。
 よく「日本人は、読解力はあるが、リスニングや会話ができない」と主張する人がいる。しかし「読解力もリスニングも会話もできない」が正しいのであって「読解力がある」というのは迷信に過ぎないようだ。(私がそうだと思っていたことが確認できた)
 しばしば日本語が特別難しいため、外国語習得上不利だと解説する人がいる。私は、これは正しくないと思っている。私の知っている、日本に働きに来た外国人たちは、1年もするとある程度会話ができるようになっている。日本語が特別難しいために外国語習得ができないというのは思い込みに過ぎないのではないか。
 私の経験からすると、英語ができないことを嘆くおじさんたちは2種類に分類できると思う。一番目は仕事や私生活において英語でコミュニケーションする必要のない人たちだ。このような人は、本当は英語ができないと嘆く必要はないはない。もう一つは日本語でも文化的な背景が異なる外国人とまともなコミュニケーションができない人たちだ。「ゴルフの話しかしないから会話が続かない」と陰口を言われているのを知らない人たちだ。話す内容がないので話しかけてもらえない。だから英語ができないのだ。
 小学生にはまず日本語で、自分の考えを話せる訓練をすべきだ。

 偉そうなことを言った後に面白いウェブサイトを紹介します。面白い英語みたいな英語でないもの(Engrish)が多数紹介されている。日本人の英語力向上には、Engrish追放運動をやったほうがよいと思う。
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by takaminumablog | 2006-07-18 08:25 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

北派工作員

青木理2006「北朝鮮に潜入せよ」講談社
北朝鮮のことが話題に上ることが多い。そこでこの本を読んでみた。
朝鮮戦争(韓国では韓国戦争または韓国動乱とよぶそうだ)が一応停戦したのは1953年7月27日。激しい戦闘の結果、韓国軍は約20万人、米軍は約14万人、国連軍全体では36万人が死傷した。一方、米国の推定では、北朝鮮軍が約52万人、中国義勇軍は約90万人が死傷したらしい。停戦終了後も双方は特殊部隊による侵攻を繰り返した。韓国側から北に侵攻した工作員を北派工作員と呼ぶ。工作員の存在は南北停戦協定に違反するため長い間公式には認められていなかった。この本は北派工作員の実態を報告したものだ。
こちらに解説記事がある。何の保障もあたえられないまま使い捨てられていく若者たちの話が痛々しい。最近になってやっと保障が与えられるようになった。韓国国防省は「1万3853人の工作員を養成し、うち7987人が死亡または行方不明になっている」と公表しているそうだ。私はあまり映画好きではないが、北派工作員が厳しい訓練に耐えかねて反乱を起した実話に基づく映画「実尾島(シルミド)」も見てみよう。
 私がこの本でもっとも驚いたのは金大中政権、盧武鉉政権でも北派工作員の養成は継続しているらしいという記述だ。(北からも工作員が侵攻してくる可能性を考えれば当然かもしれない)
 やっぱりわれわれ日本人は平和ボケなのかなあ?
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by takaminumablog | 2006-07-15 11:03 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

アルカイダ

竹田いさみ2006「国際テロネットワーク-アルカイダに狙われた東南アジア」講談社
かねてからアルカイダとは何かということが気がかりであった。スパイ映画ならともかく、世界中でテロを引き起こす大掛かりな国際テロ組織があるということはなんだかウソくさい。なかにはアルカイダというものは存在せず、米国やイスラエルが作り出したものだと主張する人までいる。(ととえばこちらを参照。この記事の著者は国際関係について極めてユニークな見解を発表する。私は参考にはしてもほとんど信用しないことにしている)
何が正しいのだろうと思ってこの本を読んでみた。もちろんこの本に書かれていることがすべて正しいとは限らないであろうが、「なるほど!」と思わせる内容である。この本によると、オサマ・ビンラディンをトップとするイスラム過激派とそれと緩い関係にあるアジアの過激派集団がネットワークを作っているらしい。まるで企業のフランチャイズシステムのようだ。このネットワークに属する組織がテロをおこせば「アルカイダ」というブランド名が冠せられるというわけだ。これらの組織はイスラム教徒が多い貧困地区で寄宿塾を経営して、ビジネスや犯罪に進出している。さらに塾生の中からテロリストを選抜しているらしい。こういう仕組みが存在する限りテロはなくならないだろう。アメリカが主導する「テロとの戦い」はあさっての方向に向かっているようだ。
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by takaminumablog | 2006-07-10 09:07 | 読書日記(その他の科学) | Comments(3)

核テロ

グレアム・アリソン著 秋山信将他訳「核テロ-今ここにある恐怖のシナリオ」日本経済新聞社
今回はとても怖い話。
ソ連崩壊のとき核兵器の紛失はなかったのであろうか。公式には「ない」ことになっている。しかしソ連の原子力潜水艦(少なくとも四隻)が合計40個の核兵器を装備したまま海中に沈没した。地上でも核兵器の紛失はあったのではないかと疑いたくなる。核兵器は巨大なものという先入観があるが、小さい核兵器はバックパックで、一人で持ち運べるくらいの大きさだということをこの本で知った。
私たち素人は「核兵器製作には高度な技術を必要とする」となんとなく思っている。しかしそれは正しくないらしい。原料(たとえば高濃縮ウラン45Kg)があれば比較的簡単にガンタイプの核兵器が作成可能らしい。
この本は散々恐怖をあおった後、次のような対策により核テロを防止することは可能であるという。
(1)管理の緩い核(ルーズ・ニューク)を許さない
(2)新たに生まれる核を許さない
(3)新たな核保有国を許さない
この本にはそれぞれについて詳しい解説がある。(3)については“現在の八つの核保有国―アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタンおよびイスラエル―の下に線を引き「それ以上は許さない」と明確に宣言することだ。北朝鮮は「新たな核保有国を許さない」政策への決定的な挑戦となっている。現在の計画が中断されなければ、北朝鮮はすぐに8個程度の核兵器と、年間12個を製造できる施設を持つことになるであろう。”と書かれている。しかしこの本の原著は2004年に出版されている。2006年の今も核テロ防止が可能かどうかわからない。
国家が他国に核攻撃を仕掛けるためには報復攻撃をうけることを考慮しなければならない。しかしテロリストは一発の攻撃で充分だ。報復攻撃しようにもその存在さえわからない。たとえ潜んでいる国が分かったとしても報復攻撃は不可能である。
今、日本のメディアや政治家は「より強い圧力を北朝鮮にかけるべきだ」と主張しているようである。しかしあまり強い圧力をかけると北朝鮮が核兵器をテロリストに売り渡すという可能性はないのであろうか。
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by takaminumablog | 2006-07-09 15:53 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)