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いわゆる「人間性」は人間の性質なのだろうか

先日読んだ人間性に関する本「赤ちゃんはどこまで人間なのか」の第一章は「心を読む能力」となっていた。確かに他人の心を読む能力は人間性の出発点だ。しかしこれは人間だけがもつ特性とは言いがたい。霊長類に仲間の心を読む能力があることは良く知られている。(「人間のもつ優れた特性」を「人間性」と呼びたい気持ちは分からないでもないが、科学的とはいえない)つぎの本にはチンパンジーとボノボが他者の心を読む実例が無数に紹介されている。
フランス・ドゥ・ヴァール著 藤井留美訳“あなたのなかのサル-霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源”早川書房(英文のタイトルを正確に訳すと「我々のなかの霊長類」)
この本の冒頭に出てくるボノボの事例は「人間性」そのものだ。
イギリスのトワイクロス動物園で、ボノボの飼育場のガラスにムクドリが激突して落下した。するとクニというボノボが、気絶したムクドリを拾いあげて立たせようとしたり、軽く放り投げたりし始めた。どうやってもムクドリが動かないので、クニは一番高い木のてっぺんにのぼり、両脚で幹にしがみついた。そして自由な両手でムクドリの翼をそっと広げ、ちょうどおもちゃの飛行機を飛ばすように、飼育場の外に向けて飛ばした。ムクドリはまだ動きがままならず、掘割の縁に着地した。クニは木からおりて、好奇心旺盛な若いボノボが近づけないよう、長い間ムクドリを見守っていた。ムクドリはその日のうちに元気を取り戻し、無事に飛び去った。

「動物は生理的要求を満たすためにだけ行動しているが、人間は理性によって動物的な本能を抑え込んで、人間的に行動する」という我々の通念となっている。しかしこれは大間違いのようだ。人間を特別視する一部の心理学(いや、大部分かもしれない)や倫理学は捨てるべきだ。この本は皆に薦めたい面白い本だ。ただし未成年者と一緒に読むには抵抗がある。ボノボは非常に好色な霊長類でセックスを抜きにボノボを語ることはできない。当然本の中にもボノボのセックスの話が多数でてくる。
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by takaminumablog | 2006-03-30 13:27 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

「赤ちゃんはどこまで人間なのか」を読む

生まれたての孫を抱っこしながら読むのによさそうだ、と思いつぎの本を購入した。
ポール・ブルーム著 春日井昌子訳「赤ちゃんはどこまで人間なのか-心の理解の起源」ランダムハウス講談社
最後まで読んでも「赤ちゃんはどこまで人間なのか」という記述は見つからない。サブタイトルの「心の理解の起源」に至っては言葉の意味すら理解できない。「人間が他人の心を理解することは進化史上どう位置づけられるか」という意味なのだろうか。あるいは「心の理解の歴史の原点」という意味だろうか。どちらにしても本の内容にふさわしいとは思えない。翻訳本の題名をつけた人は本を読んだのだろうか。長谷川真理子の解説の中にも「赤ちゃんの心がどのように作られていくのか、そして、大人が感じたり考えたりするやり方が、なぜこのようになっているのか、いくつかの興味深いトッピック取り上げて解説していく」という文がある。しかしここの「赤ちゃん」という言葉は「子ども」あるいは「幼児」に置き換えなければ本の内容の説明にならない。
原文のタイトルは「Descartes’ Baby」(デカルトの赤ちゃん)である。デカルトのロボット赤ちゃんに関する奇妙な伝説(たとえば こちら)を知っている人はフランシーヌのことを思い出すかもしれない。(知らない人も本書の最初の引用文で奇妙な伝説を知らされることになる)本書を最後まで読めばタイトルの意味が分かる仕組みになっている。原文には「How the Science of Child Development Explains What Makes Us Human」(「なにが我々を人間らしくしているか」を発達心理学はどう説明するか)という的確な副題がついている。
 本書の中にはいろいろなエピソードが出てきて面白い。私の最も気に入ったのはエピソード話。
アフリカに初めてやってきた地中海地方の人々は、ある島の動物についてこう描写している。
「この湾の奥の方には、未開人の男がたくさんいる。女はさらに多い。彼らの体はふさふさとした毛に覆われている……私たちが追いかけても一人も捕らえることはできなかった。彼らはみな、険しい斜面を登ったり、石で身を守ったりして逃げてしまった。私たちは噛みつかれたりひっかれたりしながらも、女を三人捕らえた……すると彼らは追ってこなかった。そこで私たちは三人を殺し、皮をはいでカルタゴに送った」
地元の人たちはこの未開の部族民をゴリラと呼んでいた。

本書のテーマである人間性については何も書かないうちに長い文になってしまった。人間性とは何かについて考えるヒントがほしければ本書をお読みください。
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by takaminumablog | 2006-03-18 15:47 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)