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「プロファイロング・ビジネス」を読む

ロバート・オハロー著 中谷和男訳「プロファイリング・ビジネスー米国諜報産業の最強戦略―」日経BP社 
IT先進国アメリカでは、民間会社が個人情報を収集して巨大なデータベースが作り、ダイレクトマーケティングに利用している。911(同時多発テロ事件の別名)以降、この個人情報データベースがFBIや警察などの法執行機関によっても使われるようになったいきさつと現状が述べられている。Acxiom、ChoicePoint、Identix、LexisNexisなどという普通の人は名前も聞いたことがないような会社が急成長しているらしい。このような個人情報データベースの利用によって(犯罪捜査の効率は上昇したかもしれないが)さまざま弊害が生じている事例が述べられている。単にテロリストと名前が似ていただけで、航空搭乗手続きに長時間かかってしまった事例は有名だ。米国のこのような現状を一言で言うのは難しい。感じたことを断片的に記述しよう。
(1)米国は小さい政府を目指すあまり、本来、行政がするべきことを民営化している。(刑務所、戦争など)犯罪捜査のための個人情報収集も本来民営化されるべきものではない。民間会社は情報公開の規制の範囲外にあり、間違った情報収集や不適切な利用があっても修正される機会がない。
(2)100%ただしいソフトウェアは存在しない。とくにデータベース内の情報は一旦誤ってしまうと正しいかどうか検証する手立てがほとんどない。個人情報をダイレクトマーケティングに使っている間は多少間違っても問題ない。買いそうもない人にダイレクトメールを送ってもちょっとコストがかかるだけだ。しかし犯罪捜査はそうはいかない。警察や法律関係者はこの認識が不足しているのではないか。
(3)米国では携帯電話の通話記録さえも違法に売買されているらしい。個人情報の流通を規制する制度が必要ではないだろうか。こちらを参照
(4)911以降アメリカはすっかりおかしくなったようだ。愛国を口実にしたおかしな法律が作られて、さらにその法律をも違反する運用(盗聴など)がされているようだ。テロに直接関係しない事柄でもそうだ。「インターネットで不快を与えるのは犯罪という記事を見かけた。こちら
自由と富の国、アメリカというのはもはや過去の話となったのではないだろうか。
最後に一言。この本にはプロファイリング・ビジネスというタイトルがつけられている。プロファイリングという言葉につられて私も購入したが、関係はあってもすこしずれている。売れそうなタイトルをつけて本を売っている出版社はいつかその付けを払わなければならない。
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by takaminumablog | 2006-01-28 11:56 | その他の読書日記 | Comments(1)

「東京地検特捜部」を英雄扱いするな

東京地検特捜部がライブドアの捜索を開始した。マスメディアはライブドアを大悪党のように報道し、東京地検特捜部を「悪党をやつける英雄」のように報道している。しかし私は次の本を読んでから東京地検特捜部は民主主義の仮面をかぶったゲシュタポではないかと考えている。
佐藤優2005「国家の罠」新潮社
この外務省の役人であった佐藤優が鈴木宗男事件に絡んで背任と偽計業務妨害で逮捕起訴された経緯をつづった面白い本だ。私は佐藤優が法律を犯していたかもしれないと思う。むしろ「外務省の権力の中枢にいた人であれば、大部分の人が法律を犯している」と思う。汚い金も使わない外交などあるわけがない。それなのに佐藤優だけがなぜ逮捕起訴されたか。答えは簡単。権力がそれを望んだから。東京地検特捜部はその実行機関にすぎない。
残念ながら日本企業には粉飾決算は日常茶飯事だ。カネボウのときは本当に行き詰るまで見逃していたのに、ライブドアの場合はなぜ捜査してきたのだろう。ライブドアがマスメディアに挑戦する企業で、世間の注目を集めるからではないだろうか。捜索が開始されて間もないというのに、粉飾の手口などがぽろぽろとマスメディアに流されるのはなぜだろう。東京地検特捜部が、自分に都合の良い記事を書いてくれるところに情報をリークしているからではないだろうか。
もちろん私はライブドアを擁護するつもりはない。個人投資家を痛めつける粉飾決算も大嫌いだ。しかしエスタブリッシュメントから反発の少ない、目立つ企業だけを特定して捜査するのは民主主義の公平の原則に反する。私たちは悪徳企業だけではなく「東京地検特捜部」にも批判の目をむける必要がある。
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by takaminumablog | 2006-01-19 14:54 | その他の読書日記 | Comments(1)

プロファイリング

昔の推理小説では、頭脳明晰な探偵が出てきて事件を解決するのが常道だった。最近の推理小説では探偵に代わってプロファイラーとか心理分析官という人が出てきて犯人像を言い当てるようになった。そこで推理小説を深く理解するために、プロファイリングについて勉強(?)してみようと次の本を読んでみた。
渡辺昭一2005「犯罪者プロファイリング」角川書店
以前は難事件が起こると、新聞などに識者が想像した犯人像が紹介されたものだ。この本の冒頭にも「連続幼女誘拐殺人事件(犯人、宮崎勤)のときに新聞に紹介された複数の識者による犯人像の見当違いぶりが紹介されている。十分な情報もなく推理させるメディアやそれに答える識者にはあきれるばかりだ。識者たちにプロファイリングの知識が少しでもあれば、当たりそうもない推理を公開しなかったであろう。
プロファイリングにも心理分析を中心としたFBI流の臨床的プロファイリングとイギリス流の統計的プロファイリングがあるという話は面白かった。FBI流は犯人に関する捜査情報が蓄積されていく連続凶悪事件などに適するが、プロファイラーの技量に依存するところが大きい。一方統計的プロファイリングは客観性があるが、同種の事件のデータが蓄積されていなければならない。日本では連続凶悪事件は比較的少ないので統計的プロファイリングの方が適するかもしれない。また地理的プロファイリングと呼ばれる犯人の居住地や勤務先を推定するプロファイリングも実用的だろう。プロファイリングと言っても心理分析だけではないのでプロファイラーを犯罪心理分析官と訳すのは必ずしも適当な訳語ではなさそうだ。
いずれにしても、プロファイリングは捜査の指針を補助するものであって、犯人を特定するものではないようだ。小説や映画に出てくる難事件の犯人像をぴたりと言い当てるプロファイラーはフィクションの世界だけのようだ。勉強によって理解は深まったが推理小説が味気なくなったかもしれない。
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by takaminumablog | 2006-01-17 14:30 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

ペットを飼う人に朗報―ペットによる地震予知―

数年間、池谷元伺「地震の前、なぜ動物は騒ぐのか」と串田嘉男「地震予報に挑む」という二冊の本を立て続けに読み、地震予知が可能になるのは間近に違いないとひそかに確信した。しかしそれは大きな間違いだった。その池谷元伺がまた一般向けの本を出していることを知り、性懲りもなく読んでみた。
池谷元伺2005「大地震の前兆―こんな現象が危ないー」青春出版
(注)串田嘉男によるFM電波観測による地震予知法に付いて興味ある方はWikipediaを参照
池谷元伺は次のように、古くからの言い伝えにある前兆現象には根拠があると主張している。
(1)地震が発生する前、岩石破壊に伴うパルス状の電磁波が発生する。このことは巨大な岩石をプレス機にかけて破壊する実験で確かめられる。(およそ2週間前位から電磁波が発生すると書かれている。前兆現象が2週間前位から現れるというのがその根拠のようだ)
(2)パルス状の電磁波は、電磁波に敏感は動物に異常行動を起こすもとになる。
例1:猫が高い木に登ぼり泣く。
例2:日ごろおとなしい犬が暴れたり、飼い主に噛み付く
例3:ハムスターはお互いが噛み合ったり、毛づくろいをする
(3)電磁波が地震雲などの異常な気象現象を引き起こす
(4)電磁波により家電製品が誤作動する
(5)このほかにも植物など多数の前兆現象が紹介されている。
確かに、言い伝えられる前兆現象は迷信ではないかもしれない。しかし電磁波は雷の接近などによっても発生し、前兆現象があったからといって、地震が起こるとは限らない。近いいうちに地震予知が可能になるという著者の意見は楽観的すぎるだろう。しかし、国の政策として行うことはできなくても、つぎのような著者の薦めは傾聴に値する。個人が勝手に行う予知は当たらなくてもよい。
アンテナや受信器で電磁のノイズを観測せずに地震を予知しようと思ったら、動物たちに頼らざるをえない。もちろん動物は地震を予知したのではなく、地下で発生した電磁パルスにおびえてパニックになったのである。ただ「岩石が壊れるときと同じことが地下で起こっている」ということくらい、賢い動物たちは直感で勘づいているのかもしれない。
 人間はこの敏感な動物に頼ることで身を守っていけばいい。ではどんなペットを飼えばいいのだろうか。身近なところでは、インコ、ハムスター、イヌ、ネコなどがいいだろう。とくに黄色のインコは敏感なようである。冬なら冬眠動物であるカメやクワガタも役に立つ。
 彼らを地震予知対策に飼うときには、飼い方にも注意したい。金属のカゴにいれるのではなく、できるだけ竹やプラスチックのカゴにいれて飼うことだ。動物は電磁パルスに反応して騒ぐのだから、その障害となる金属は避けるのである。
 普通の人が日常生活の中で動物をかわいがって観察し、防災に注意することは、百利あって何の害もない。動物が雷の電磁波にも人間の電磁波にも敏感なことを念頭において、パニックにならず、万が一の地震に備えることが大切である。

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by takaminumablog | 2006-01-10 12:03 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

迫りくるインフルエンザ・パンデミック

世界中のあちこちから鳥インフルエンザが人に感染したというニュースが聞こえてくる。インフルエンザウイルスの人工合成に成功した研究者による次の本の序文に次のような文が書かれている。
河岡義裕2005「インフルエンザ危機」集英社新書
幸いなことにホンコン風邪が猛威を振るったあと、パンデミックは起きていない。しかし、私たちインフルエンザ研究者は、「新型インフレンザウイルスによる、新たなパンデミックの危険が迫っている」との共通認識をもっている。私自身、二〇年にわたってインフルエンザウイルスの研究に従事してきたが、今ほどパンデミックの危険性を強く感じたことはない。

1968年ホンコン風邪がはやったころに比べると医療技術が進歩しているだろうが、世界の人の往来も飛躍的に増加している。われわれも危機意識をもつ必要があるだろう。
インフルエンザパンデミックに対して、私たちがもっている武器は二つある。ワクチンと抗ウイルス薬だ。しかしパンデミックが起きる前に、ワクチンを大量に備蓄することはまずあり得ない。となると大事なのは抗ウイルス薬の備蓄である。
(同上書)

ところでインフルエンザワクチンの危険性を啓蒙(?)している次の本は、抗ウイルス薬にも副作用があることを強調している。
母里啓子2005「今年はどうする?インフルエンザ―疑問だらけの予防接種と特効薬」ジャパンマシニスト社
私は医者の書いたものを評価するほどの医学知識はないが、他の多くの本が正しいとすれば、この本は悪質なトンデモ本ということになる。もしこの本の読者が抗ウイルス薬を嫌い犠牲となった場合、著者たちに責任は生じないのであろうか。(タミフルは48時間以内に服用しなければならない。迷ったら手遅れだ。)
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by takaminumablog | 2006-01-07 14:36 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)

「国家の品格」を読む

この本は科学について書いたものではないが、絶賛している記述を見かけたので読んでみた。藤原正彦2005「国家の品格」新潮社(新潮新書)
「論理と合理性だけ追求してはだめ」という著者の主張は、著者が数学者であるため、納得してしまう人もいるかもしれないが、よく考えてみると根拠に乏しい。哲学や倫理学にも(数学とは異なるかもしれないが)論理や合理性がある。武士道に導くのは我田引水。小学校での英語教育の問題点については私も賛成。しかしそれを議論するならもう少しデータを示す必要がある。「数学の天才は美しい町から生まれる」という記述にも目に留まったがデータ不足の感がある。
全体の主張に反対するわけではないが、お勧めするというほどの本ではない。著者には論理的思考の重要性、それを養うにはどうすればよいかを書いてほしい。
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by takaminumablog | 2006-01-03 14:07 | 読書日記(その他の科学) | Comments(0)