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「産む機械発言批判」を批判する

河野稠果2007「人口学への招待―少子高齢化はどこまで解明されたか」中公新書
皆が忘れかけている「産む機械」発言について感想を述べたい。柳澤厚生労働大臣(当時)が「女性は産む機械」と発言したと批判された事件があった。もう忘れた人はこちらの記事を読んで欲しい。
柳澤大臣は合計特殊出生率の意味を説明するためにこの発言をしたものだ。「女性の人権無視」などと批判した人々の知能レベルの低さにあきれ返ってしまった。
彼は女性=産む機械と発言したのではなく、喩えたに過ぎない。発言者の意図と切り離して言葉の綾を批判するのはおかしい。どこかの党首が「あたたかい国・日本」と発言したからと言って地球温暖化推進論者ということにはならないのと同じだ。
「喩えにしても言葉の選択が悪い」という反論があるかも知れない。しかしそう反論する人は合計特殊出生率という言葉の意味を知らないに違いない。この言葉の意味を知れば彼の比喩はけして突飛なものではないことがわかるだろう。「産む機械」というのはかなり適切な比喩である。上記の本から言葉の意味を説明した部分(p.68~p.69)を引用する。
合計特殊出生率は、最近もっともよく使われる指標である。これは簡単に言えば、女性の再生産年齢(15~49歳)のそれぞれの年齢別出生率を合計したものである。元来この指標は英語のtotal fertility rate の訳であり、直訳すれば合計出生率であるが、先に記した総出生率と混同されないためもあり、またそれぞれの年齢別は年齢別「特殊出生率」ともいわれ、それらを合計すると言う意味もあって、これまで「合計特殊出生率」と言ってきた。
ここで注意しなければならないのは、年齢別出生率の分母は女子人口であり、有配偶女子だけに限るものではないということである。つまり長所は各年齢階級の大きさは皆同じと考え、したがって各年齢階級の重み(ウェイト)は全部1であるので、この率が粗出生率のように年齢構成によって影響を受けないことである。もう一つの長所は、そこで示された年齢別出生率のとおりに子どもを生んだとして、一人の女性が再生産年齢15~49歳を通過する間に(つまり一生を通じて)産む平均子ども数を意味し、人口研究者以外の人にも理解しやすい指標となっていることである。
 
産む機械発言を批判する人たちは「15歳という未成年者を計算に入れるのはおかしい」、「有配偶女子だけに限定すべきだ」と言い出すかもしれない。
柳澤大臣が厚生労働大臣としてふさわしいひとだったかどうかは分からないが(注)、彼の「産む機械発言」を批判した人たちはその立場にふさわしくない人たちだ。マスメディアも批判者たちの知能レベルを批判するべきであった。
 
(注)大臣の発言は、「合計特殊出生率の低下の原因は結婚した女性が子どもを産まなくなったから」のように聞こえる。彼は問題の本質を理解していなかった可能性もある。
しかし、最近の新しい研究によると、1990年以降夫婦の子どもの生み方にも変化が生じている。近年の少子化は、結婚適齢期の女性が以前よりも産まなくなった効果が7割、結婚している女性が子どもを産まなくなった効果が約3割という数字を人口学者の廣嶋清志、金子隆一、岩沢美帆のそれぞれの研究が示している。だが、いずれにせよ、合計特殊出生率が2.1を恒常的に下回った出発点である1970年代中期から、今日の1.26という超低出生率時代にいたる過程で、適齢期の男女が結婚しなくなったことが日本の少子化の最大の原因であることは間違いない。

  p.164
by takaminumablog | 2007-09-19 14:36 | その他の読書日記
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