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環境ホルモンがわが国の環境政策に与えた影響

シーア・コルボーン他著、長尾力訳2001「奪われし未来(増補改訂版)」翔泳社(ISBN4-88135-985-1)
「環境ホルモン」という言葉はわが国の環境政策に大きな影響を与えた。環境ホルモンは上記の著者シーア・コルボーンによって言い出された理解している人が多い。しかし上記の本の本文部分には「内分泌撹乱物質」という言葉はでてきても「環境ホルモン」という言葉はでてこない。上記の本の解説部分を書いている井口泰泉によって発明された言葉だそうだ。「奪われし未来」には、図表がまったくでてこない、同一の事例を何度もくどくどと説明した分かりにくい本だ。そもそも環境ホルモン(または内分泌撹乱物質)がそんなに問題なのだろうか。他の本を読む必要がある。
 つぎの本はシーア・コルボーンらの本に厳しい批判を浴びせている。
西川洋三著2003「環境ホルモン 人心を「撹乱」した物質 地球と人間の環境を考える04」日本評論社(ISBN4-535-04824-1)
批判のポイントはつぎのとおり。
(1)環境に出た物質の動物への影響が繰り返し書いてあるが根拠やデータに乏しい
(2)動物にいえることは人にも当てはまると主張している。しかし人に関する話は、毒性が認識され20年も前に使用禁止になっている合成ホルモン剤DESについてと精子数の減少くらい。そもそも精子数は気温との相関関係が大きくいろいろな都市のデータを混在させたものは信頼性が乏しい。
 両方のポイントとも、かなり説得力があると思う。多数の魚が性転換することは有名だ。魚に雄か雌か判別がつかないものが見つかったとしても、自然な状態と比較したデータがないとなんともいえない。つぎの本によるとサンゴ礁でふつうに見られる魚たちが性転換するそうだ。
桑村哲生2004「性転換する魚たち-サンゴ礁の海から-」岩波書店(ISBN4-00-430909-3)
脊椎動物のなかで性転換するのは、魚や両生類の一部だけだそうだ。シーア・コルボーンらの「魚で起こるは人にも起こる」という主張は奇妙ではないか。人間の精子数の事例についても納得できない。男性の精巣は体温より2、3度低くなければならないことは常識である。だから精巣は体から飛び出している。余談になるが、先日、育児に関する相談会で保健所の講師が「男子にからだに密着するジーパンをはかせると生殖機能発達の妨げになる。逆に女子は冷えるのはよくない」と指導していたという話を聞いた。環境ホルモンより男性のジーパンの方が問題ではないだろうか。
 しかしちょっと待て。西川洋三は企業側の人間であるため偏向があるかもしれない。そこで私が敬愛する(と言っても会ったことはない、事実にこだわる姿勢が好きなだけ)中西準子の本を参照する。
中西準子2004「環境リスク学 不安の海の羅針盤」日本評論社(ISBN4-535-58409-5)
『内分泌撹乱物質が大きな関心をよぶきっかけとなったのは、言うまでもなくアメリカ人女性シーア・コルボーンらの著書「奪われし未来」である。これを読んだとき著者らが生物界の異変の原因を地道に追ってきたことに科学者として感銘をうけた。そして生物界でおきた不思議なことのいくつかが「内分泌撹乱」という考えで説明できるかもしれないと私自身も考えた。今後こういう視点も含めて環境問題を見るべきだという一つの示唆として読んだ。総じて生物界ではありそうなことだが、人についてはそれほど大きな影響はありそうもないというのがその時の感想だった。例として挙げられている生物の大量死や人間の精子の減少などとある種の物質との関係については、とてもこの本に書かれていることをそのまま信用する気にならなかった。
ところがこの本が日本に入ってきた途端に、人類の危機を喚起する警世の書として受け止められ、あらゆる異状が環境ホルモンで説明づけられるような錯覚を生み出してしまった。』(p159~p160)
 こういう意見に対して多くの環境活動家たちは「はっきりしてからでは遅すぎる、対処しておいて損はない」と、いわゆる予防原則を持ち出して反論してくる。しかし予防するにもコストがかかる。同じコストをかけるなら弊害のはっきりしているものを優先すべきだ。わが国では、先進諸国で規制されているたばこやアスベストの規制がとても緩い。行政は、あまり規制を強くするとコストがかかるという。しかしその一方で、世界に類を見ないダイオキシン規制がある。どうもおかしい。
by takaminumablog | 2005-07-24 15:20 | 読書日記(環境問題)
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